平成=年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
竹製車椅子の開発
久津輪勝男・阿部優。大内成司・小谷公人・池田喜一*
別府産業工芸試験所 *九州工業技術研究所
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要旨
竹という地域の資源と技術を活用して,福祉機器の開発に取り組みト肌触りや座りごこちなどの人との親和性や 使用環境との調和性を重視する竹製車椅子を試作開発した.竹製車椅子の開発のポイントは,(1)竹部材の剛性を高 めるために,積層技術と接合箇所を少なくする曲面成形技術を用いて製作した竹製部材を採用した.(2)軸受部の強 度を高めるために,扇形状のアルミ部材の中心に車輪の軸受を設ける構造にした.(3)座面に竹の柔らかさを出すた めに,1台は編組を施し,もう1台は竹単板をスリット状に配置した.(4)竹の肌触り感や表情を出すために,利用 者が接触するアームレスト,ブレーキグリップ,ハンドリムなど全てを竹製部材にした.
1.はじめに
2015年には日本の高齢者(65歳以上)の人口比率が25% を超えるという超高齢化社会の到来1)が予想されている. また,介護保険制度の成立により,自宅で暮らす高齢者 や障害者を社会全体で支えるシステムが確立されつつあ る.在宅介護においては,介護必要者の約70%が日常生 活で歩行動作に介助が必要2〉とされ,現在の車椅子利用 者は約30万人と推定されている.このような情勢の中で, 今後,益々高齢者用の福祉機器として,在宅時に車椅子 を必要とする使用者数やその使用頻度も増加するものと 予想される.
住宅環境面では,建設省の長寿社会対応住宅設計指針3) や厚生省の高齢者向け住宅対策などによって,車椅子で の生活を想定したバリアフリー住宅などが普及してきた.
ところで従来の車椅子は,折りたたみ携帯性や強度安 全性等,移動時の機能性を重視したものが一般的であっ た.しかし,使用者の使用目的や使用環境に合わせて機 能やデザインの多様化が進み,高齢者の在宅介護用に適
した車椅子も検討されはじめている.
在宅介護用の車椅子は,最も身近な生活家具と捉える ことができる.生活家具として車椅子の素材を考えた場 合,従来の金属材料は剛性,加工性などの機能面では優 れているが,肌触り4)や座りごこちなどの人との親和性や 使用環境との調和性を重視すると自然素材の方が優れて いる.現に,国内の家具メーカーなどによって,木製車 椅子が開発され商品化がはかられている.
当センターでは,人の感性に調和する自然素材による 車椅子の製作が求めらている中で,竹に注目した.
竹は,わが国においても,建築や工芸品に伝統的に使 用されている親近感のある素材である.特に当県は,国 内でも有数の竹材生産量(竹材生産量シェア13%:鹿児 島県に次ぎ全国2位)を誇り竹製品産業(竹製品生産額 シェア26%:京都府に次ぎ2位)が集積している.また, 世界の竹林面積1700万haの80%がアジア地域に集中し, 東南アジアや中国。インドなどは,現在,建築材,家具 材,パルプ材として利用技術の開発が急速に進展してい る.また,竹の自生しない欧米においても,竹のその特 徴的な成長形態や材質感からオリエンタルなイメージを 持つとして,ファッション・インテリア。ガーデニング 関連商品を中心に人気が高まっている.しかし,福祉機 器である車椅子に,竹材を利用している事例は見当たら ない.
このような背景の中で,地域の資源と技術を活用して, 社会的にも多様な技術開発の要請が高まっている福祉機 器の具体的な研究開発を実施する必要性は高まっている.
そこで,福祉機器関連の基盤研究である車椅子関連の 研究が行われていた九州工業技術研究所の呼びかけによ
り,竹材利用の技術開発について専門性の高い技術分野 を確立していた当センターが共同研究することで,竹製 車椅子を試作開発したので,その内容を報告する.
平成11年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 2.竹材の特性
開発試作する上で,竹の特性を以下のように捉えた. ①材料剛性:曲げや引張りの強度がブナ材の約1.3倍5). ②使用感:竹材の弾性が座りごこちの面で適度なクッ
ション性を有し,表皮や節の質感が肌触りの面で独 特な感触をもつ.
③外観:竹材の素材色や竹編組のデザイン性などは, 現在の日本式家屋の使用環境に調和する. ④資源循環:国内でも豊富な地域資源であり,かつ成
長期間3年生以降の竹材を毎年持続的に利用でき資源 環境負荷が少ない.
3.コンセプトと設計 3.1開発コンセプト
開発コンセプトを「竹の特性を生かし人の感性に調和す る在宅福祉家具」とした.つまり,開発上では,使用環境 を一般住宅の屋内に特化し,日常で最も長時間利用する 快適な車椅子を開発することを目的とした.
3.2 設計コンセプト
具休的な設計コンセプトは,以下の4点に主眼を置いた, ①フレーム部材はすべて竹でつくる
②接合部(継ぎ目)を少なくし,車軸部分を強くする ③人が触れる部分に竹のクッション性,節の表情,表
面の質感などを活用する
④竹材処理技術や竹編組加工技術などの地域技術を特 徴的に付加する
3.3 開発モデルの設計
自然素材で作られている先進事例として,秋田木工㈱ 製の木製車椅子を参考とした.具体的な設計作業では, 座面の角度,車軸受フレームの構造と位置,アームレス トの高さ,フットレストの折りたたみ機構等などを考慮 して,2タイプを設計した.
4.製造工程 4.1竹材処理
材料となる竹材は,県産のモウソウチクを使用し,竹 材は油抜き処理を行って後,一部は蒸気熱処理を行う. 丸竹材(約直径120mm・肉厚12mm)から幅40× 厚5× 長 1500mの積層用竹単板を作る.(Fi g.1)
4、2 看責層成形部材の加工
積層接着用の型締めジグを用いて,竹単板に接着剤を 塗布し数枚貼り合せ圧締しながら必要な形状の部材を作 る.曲面成形の場合は、曲面成形ジグに挟み圧締接着し 成形する.その後,部材を各部位の寸法形状や接合部分 の形状に加工する.(Fi g.2)
Fi g.1積層用竹単板
Fi g。2積層成形接着加工
Fi g.3部材組立
平成11年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 4.3 部材組立
積層部材を接合し,肘あてフレーム部,座面部等の各 パーツごとに組み立てて,仕上げ研磨を行う.(Fi g.3)
4.4 塗装及び金具取付
各パーツをウレタン塗装する。組立金具,補強金具, 車軸金具,アクリル板などを取り付ける。(Fi g.4)
4.5 座面の錆組加工
竹編み座面部を竹ヒゴで編む。(Fi g.5) 4.6 パーツ組立(完成)
各パーツを組み立て,金具ボルトで固定(Fi g.6)して完 成となる。(Tabl e2)
5.開発のポイント 5.1竹フレーム部材の強度をいかに高めるか 竹材の剛性を高めるために,積層接着技術と接合箇所 を少なくする曲面成形技術を用いて作製した竹製部材を 採用した.
5.2 車輪の軸受部をいかに強く固定するか 軸受部の強度を高めるために,扇形状のアルミ部材 (以後,扇形軸受支持部と呼ぶ)の中心に車輪の軸受を 設ける構造にした.扇形軸受支持部と竹製部材との接合 は,扇形軸受支持部の二辺と竹製部材を接着及びネジの 併用固定することで行った.また,上下方向の力がか かっても扇形軸受支持部に固定されている竹製部材にそ の力を分散するようにした.(Fl g.7)
5.3 竹の弾力性をどのように表現するか
厘面に竹の柔らかさをだすために,1台は編組を施し, もう1台は竹単板をスリット状に配置した.(Fi g.8,9)
5.4 竹の感性をいかに利用するか
竹の肌触り感や表情を出すために,利用者が接触する アームレスト,フットレスト,ブレーキグリップ,ハン ドリムなど全てを竹製部材にした.また,竹の表情を出 すためにアームレストや座面に竹の節や表面の表情をも つ材料を使用した.(Fi g.8,9)
Fi g.5編組加工
Fi g.6パーツ組立
Fi g.7扇状軸受支持部
Fi g.9竹単板座面とブレーキ及びハンドリム Fi g。8編組座面とアームレスト
平成=年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
ぎi g.10 竹単板スリットタイプの竹製車椅子 Fi g.11竹編組タイプの竹製車椅子
平成‖年度 研究報告 大分県産業科学技術センタ洲 Tabl el 車椅子の材質による比較
区分 比較項目 金属製車椅子 喜 木製車椅子 竹製車椅子
剛性(材料強度) 高い 金属製より低い
金属製より低いが、 木製よりも高い 機能性
曲げ木技術等が 必要 積層技術等が 必
・・一」一\ r 笥い
なので低い 要なので低い
移動携帯性 高い 低い 低い
デザイン的特徴
機械的デザイン によ 書 家具的デザインi こ よる 】工芸的デザインに よ る無機的な感じ 自然な調和感 る自然な調和感 感性
座面の弾力性 合成皮革による 布十ウレタンによる
竹割り板あるいは 竹
】 の編組による
肌触り 冷たい質感 暖かい質感 暖かい質感
環境 資源の再生性 資源再生時間 大 資源再生時間 小
Tabl e2 竹製車椅子の仕様
仕様項 目 竹製車椅子共通仕様
使用素材
部材成形技術 竹板積層接着成形及び積層曲面成形 肘部は節や表面の質感を生かした部材使用
車軸受部位構造 扇形軸受支持部 車軸応力に耐える構造
塗装仕上げ 抗菌性ウレタン塗装つや消しクリヤー仕上げ 衛生面を考慮した抗菌性
外形寸法(mm) 幅(Ⅵr )655×奥行(D)915× 高(H)830・850 ゆったり座れる幅を採用
座面高さ(SH)450 座面幅(SW)400
重 量(kg) 18,2 木製よりもやや重い
晒竹編組座面タイプ 炭化竹板座面タイプ
竹材処理 油抜き乾燥処理 竹らしい素材色 高圧蒸気処理 熱水反応による自然
(処理名=材色) (晒竹=乳白色) (炭化竹=茶色) 着色と防虫性
シート構造 竹編組ネット構造 地域技術である竹編 竹単板スリット構造 竹のクッション性を
(六つ目さし編み) 組技術を付加・竹ら 付加・竹の節や表面
しいデザイン の表情を生かす
アームレストの高さ 640 mm 机下に入る高さ 670 mm 一般的な高さ 介助クヾリップ 皮付き藤柄(つか)巻 竹籠製作技術付加 磨き藤千段巻漆塗 竹籠製作技術付加
ブレーキクヾリップ 楕円球状クヾリップ 握りやすい形 棒状クヾリップ 一般的な形
6.走行試験
完成した2種類の竹製車椅子をFl g.10,11に示す.ま た,その仕様をTabl e2に示す。前者は熱処理した茶系竹 単板を用いたもので,後者は白竹の編組を施したもので ある.
試乗テストにおいて,座面と背もたれの軟らかさを確 認した.また,辛が触れるハンドリム,アームレスト ブレーキグリップが竹製であるため,金属にはない温も
り感を味わえた.走行実験においては,直線での走行安 定性は良く,曲線でのハンドリムの操作も軽く,使い勝 手は良かった.これは,概ね開発・設計コンセプト通り に仕上がっていたので,試作第1号機としては満足のい くものであった.
一方,車椅子の軽量化や低コスト化等が今後の課題と して明らかになった.
7.竹製車椅子開発の今後
今後は,構造強度データの把握や加工コストの削減等, 商品化のための検討を進め,竹製車椅子として完成度を 高めていきたい.また,竹材を用いた福祉機器の開発を
さらに行ってゆく考えである.
参考文献
1)ht t p://wm.mhw.go.j p/wp/4M卜2.ht ml }
2)ht t p://www.r nhw.go.j p/t oukei /h9kenkou_8/kekka−d.ht m1 3)ht t p://www.j aei c,Or .j p/hyk/s i s i n.ht m
4)ht t p://www.j por 最t i ,gO,j p/r yut u/map/f ukus i /f r ame.ht m 5)農林省林業試験場編,木材工業ハンドブック(第2版),丸善
(1959)